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『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』クリエイターズブログ Vol.3

株式会社ジェットスタジオ
2025.02.01
こんにちは。

本プロジェクトにてカットシーンムービーを担当させていただきましたジェットスタジオの松下と申します。本記事では、そのカットシーンの制作工程についてちょっとした小話を混ぜつつご紹介させていただきます。

まず、ひとつひとつのカットシーンは次のような工程で作り上げていきます。
アニメーション工程までにはMayaを、シーン制作兼レンダラー用途にUE5を採用しています。
After Effectsは簡単な編集作業に使用している程度で、基本的な見栄えはUE5でほぼ完結させています。

まず最初に企画書、そしてデザイン画やシナリオをご提供いただきました。
そこからアセット班と演出班に別れ、アセット班はデザイン画をもとにモデルの作成に、演出班はシナリオをもとに絵コンテの作成に取り掛かります。
今作はシナリオのボリュームに伴いカットシーンの量が過去に例が無いほど多く、総勢70名近くのスタッフを動員して制作にあたりました。

カットシーンで使用したキャラクターモデルは、ご提供いただいたインゲーム(バトル用)のモデルデータをベースに、カットシーン用モデルへ改変を加えています。一部のキャラクターはインゲームモデルが存在しなかったため新規で作成しました。

リグはmGearを使用して組まれていますが、一部ではキャラクター性を考慮した個別の調整が行われています。
例えば飴宮怠美は「舌」を含めた表情が印象的なため、他キャラクターよりも舌の調整リグを増やしました。このキャラは緊迫したシーンでもどこかふざけていることが多いので、その特性が活かされるリグにしています。
▲Mayaでのリグ操作の様子


▲完成したカットシーン

キャラクターモデルはUE5に移行後、マテリアルの設定や胸部の炎エフェクト追加を行い、レンダリング用モデルとしています。

インゲームモデルは実機でリアルタイムで動かすために処理負荷が考慮された設計になっています。
対して、弊社が担当したカットシーンではUE5を介して最終的には動画化してしまう想定でしたので、ポリゴン数などの制約が少なく、デザイン画の魅力を可能な限り3Dに落とし込むことを最優先としました。

特に小松崎さんのキャラクターはゲーム中の立ち絵で正面を向くことが多くあるイメージなので、3Dモデルでも正面の印象をより意識しました。
▲左端が立ち絵(2D)、中央と右端が弊社で作成したカットシーン用3Dモデル

続いて演出班の工程になりますが、前述の通りいただいたシナリオをもとに絵コンテを作るところから始まります。

シナリオにはゲーム本編の内容に加えて、カットシーンの大まかな流れやキャラクターのセリフを記載していただいていたため、それを基に細かな部分を補ったり膨らませたりしつつカット割りなどを考えていきました。

今回のように絵コンテ工程から担当させていただける機会は、演出の根幹部分から携わることができるため非常に大きなやりがいを感じます。

絵コンテが完成したら、それをもとにMaya上で大まかにカメラワークやキャラクターのポーズをつけ、ムービー化します。これを本プロジェクトではVコンテと呼んでいます。これを改めて小高さんに確認していただき、問題が無ければアニメーション本制作を進めます。
▲Vコンテ


▲アニメーション本制作

カットシーンの場合、“セリフボイスと演技を合わせる” という工程が欠かせません。
しかし、今回の制作初期段階ではキャストが未定の状態だったため、当然音声も未収録でした。そのような状況下では「このキャラクターの声優さんはこの人だろうか?」「このくらいのテンポや尺で話すのでは?」と想像しながら可能な範囲で作業を進めていくことになります。

ボディアニメーションの多くはモーションキャプチャの撮影を行い、それをベースとして手付けでの調整をしていますが、全て手付けでアニメーションしている箇所もあります。モーキャプ撮影後に演出の流れが変わった場合やそもそも人間離れした動きなどは、手付けで補うことがほとんどのため、ハイブリッドな手法になっています。

今回は自社で絵コンテから作成しているため、演出意図の確認を自社内でスムーズにとることができ、かなり柔軟に演出の変更や改善を行うことが出来ました。この点はクオリティアップに直結している点かと思います。
実際にアニメーション工程で担当アニメーターから演出の変更案が挙がり、それが完成品へ反映された箇所は多く存在します。

物語の途中で■■された仲間が襲い掛かってくるといったシーンがあるのですが、責任を感じた狂死香が切腹を試みる…という演技は実はコンテには無く、担当アニメーターのアドリブから生まれました。

この時のセリフはもちろんシナリオに存在しませんでしたが、後に届いたボイスデータにはしっかりと狂死香のボイスが入っており…それどころか狂死香を止めようとするつばさの演技まで…とても感激しました!(関係者の皆様、大変お手数をおかけしました!)

余談ですが、■■された時のグルグル目は江●島盾子のオマージュです。是非どこのシーンか楽しみにお待ちください。

アニメーション作業の後は、MayaからカメラやキャラクターのアニメーションデータをFBX出力し、UE5のシーケンサーに配置してシーンの本制作へと進んでいきます。膨大な量のデータ出力とシーケンサー作成を手作業で行うのは現実的でなかったため、専用の内製ツールを作成して効率化を図りました。

エフェクトの多くはUE5でNiagaraを使用して作成していますが、一部ではHoudiniも併用しています。
次の画像は、ゲーム冒頭で澄野が異空間を落下していく際のエフェクトです。このような複雑な3Dエフェクトの一部ではHoudiniを使用しています。
▲Houdini作業画面


▲完成したカットシーン

UE5を採用したのは、レンダリング時間を削減し、そのぶん演出や絵作りに時間を配分することが主な狙いです。UE5から出力した連番ファイルはその後AfterEffectsに読み込み、最終的な色味調整や一部のエフェクト追加、画面分割などの特殊な編集作業を行い、完成映像となります。
社内でのUE4使用実績はいくつかありましたが、UE5を大規模に使用した例は本プロジェクトが初でした。手探りな部分も多くありましたが、十分な成果が出せたと思っております。

お伝えしたい裏話は他にもたくさんあるのですが、重大なネタバレをしてしまいそうなのでこの位にとどめておきます。
物語は後半にかけてどんどん盛り上がっていくので、その時流れるカットシーンにもぜひご期待ください!