SPECIAL

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』クリエイターズブログ Vol.4

高田雅史×福田淳
2025.02.08

トゥーキョーゲームスサウンド対談『ハンドレッドラインの音を語る』(前編)
高田雅史×福田淳
(インタビュー・構成 小山恭平)


今回の開発ブログは対談形式でお送りします。
トゥーキョーゲームスサウンドチームのお二人に、ハンドレッドラインの世界を彩る音についてたっぷり語ってもらいました。

密な連携が質を上げる


―― では、まずは自己紹介をお願いします。
高田 あ、高田と福田です。二人合わせてトゥーキョーサウンドチーム。コンビ結成二十年。どうぞよろしくー。
福田 いいんですか、そんな緩い感じで(笑)
高田 大丈夫大丈夫。きっとこのブログを見にきてくれる人達は、うちらのこともだいたい知ってる気がするし、リラックスした感じでいこうよ。

―― まるで漫才のような掛け合い(笑) そんな息ぴったりなお二人がサウンドチームを組んだ経緯について教えて下さい。
高田 昔役員をしていたグラスホッパー・マニファクチュア※1という会社に福田くんが入ってきたのが最初の出会いです。
福田 あれは2002年ぐらいの事ですから、23年前ですね。僕が初めて入ったゲーム会社がグラスホッパーで、高田さんが直属の上司だったんです。高田さんにはゼロから色々な事を教えていただきました。
高田 え、指導なんてしたっけ? 毎日おしゃべりしてた記憶しかないけど(笑)
福田 相当おしゃべりもしてましたけど(笑)。ゲームサウンドについてのノウハウも沢山いただきましたよ!

―― お二人ともグラスホッパーを抜けた後、各々サウンドクリエイターとして半ば独立するわけですが、独立後もチームを組んでやっていこうと思った理由は?
高田 チームを組み続けているというより、チームを解散する理由がないし、がむしゃらに仕事していたら、気付けば二十年経っていました。
福田 まさに。解散しようなんて思いもしませんでした。サウンド制作において、気心が知れた人とチームを組んでいる事のメリットは大きいですからね。

―― チームを組んでいるメリットというのは?
高田 個人でサウンドやってると、どうしても行き届かないところが出てくるんですよ。楽曲とSEの音程が合っていなかったり。福田くんとチーム作業する時は、そんな事は絶対に起きないんですけどね。
福田 サウンドは基本、密に連絡を取り合った方がいいですね。サウンド同士でもそうですし、他のセクションともなるべく近づいた方がいいなと。
高田 制作中に密な関係性を築けないと、違和感のあるサウンドができあがってしまうんです。楽曲自体のレベルは高いのに、そのゲームにマッチしていなかったり。

―― 旧知のお二人でチームを組む事で、まずサウンド同士の齟齬が起きないようにしたと。
高田 はい、サウンドでチームを作った上で、他のセクションともいい関係性を築けるとゲームの質はグッと上がりますね。サウンドの方から楽曲のテンポを伝えて、それに合わせてグラフィッカーさんやプログラマーさんが演出を練ってくれて…みたいなパターンも面白いです。
福田 密なチームワークを作れると、単純に楽しいですしね。
高田 そう! 楽しいのはすごく大事。楽しければ楽しいほど、やっぱり質は良くなりますね。今回のハンドレッドラインも大変ではあったけど、とにかく楽しかった。なんか大学のサークルみたいでしたね(笑)
福田 チームを作るとやり易くなるし、そのやり易さが楽しさにつながり、結果としていいものが出力されますね。
高田 ハンドレッドラインが最高に面白いと感じる要因もそこにあると思います。トゥーキョーはサウンドチームだけじゃなく、どのセクションもしっかりチームになってるし、チーム同士がお互いの領域に一歩も二歩も踏み込んで開発に熱中してますから。

オーダーは「あの感じで」


―― 高田さんは今作ハンドレッドラインにおいて、どのようなコンセプトでBGMを作ったのでしょうか?
高田 最初に小高さん※2から受けたオーダーは、「あの感じで」でしたね。

―― あの感じ…?
高田 このゲームをプレイしていた時の記憶が、ふと蘇るような楽曲にしたいんです。十年後に曲を聞いた時に、プレイしていた頃の情景が頭の中に鳴り響くような、そんな曲が欲しいって事です。
福田 「あの感じ」からそこまで(笑)
高田 記憶と匂いは強く結びついていると思うんですが、ゲームにおいては、その「匂い」にあたるのが音楽の役割なのかなと考えています。だからこそ、記憶に直結するような音楽を作れたらいいなと、いつも考えています。

―― ユーザーの未来に向けて曲を作っていると。
高田 でも、未来にだけベクトルを向けているわけではないんです。今回のチャレンジとしては、過去作の音色をあえて使い、それを新しい音楽に再構築してみました。記憶の話にも関わるのですが、メロディーやリズム隊の音色も記憶と密接に結びついていると考えています。だからこそ、過去作の音色をもう一度作り直し、新しい形で表現してみようと試みました。
福田 過去作の音色も使いつつ、しっかりと作品ごとに刷新し合わせていく。うまく伝えられないのですが、この「刷新され具合」「合わせ具合」に毎度、何と言えば良いのか・・・感服?しています。

BGMはもう一人のキャラクター


―― 高田さんの作家性について、もう少し掘り下げていきたいです。高田さんの音楽はワンフレーズでも聞けば、「あ、高田さんの音楽だ!」とわかるぐらいに個性が強いです。そんな高田さんらしさはどこから出てくるものなのでしょう?
高田 作家性があると言われても、正直ピンとこない部分もありますが、意識していることは確かにあります。

―― 意識というのは?
高田 シナリオメインの作品に参加する際には、もう一人のキャラクターを作るような気持ちで曲を作るようにしています。「最高のキャラクターを作るぞ!」という意気込みが、結果的に作家性に繋がっているのかもしれません。

―― 確かに高田さんの曲は、キャラクターレベルで存在感が強いです。
高田 バックグラウンドミュージックとして流れるだけではなく、音楽を通じて、ゲームの世界観とプレイヤーの体験をつなげる役割を果たしたいと考えています。音楽がまるでキャラクターや解説者のように、感情やテーマを具現化し、プレイヤーとゲームの空間をつなぐ橋渡しをするような形を目指しています。
福田 もう一人のキャラクターを作るぞ! の意気込みの話は初耳です。そういうことだったんですね。

―― 高田さんの曲はキャラクターと同レベルの存在感を持ちながら、世界観とも完璧にマッチしています。どうやって作品の世界観を汲み取っているんでしょう?
高田 ゲームをプレイしたりシナリオを読んでいると曲が頭の中に流れてくるんです。見たりセリフを聞いたり感じた物を、そのまま音楽に翻訳している感覚ですね。
福田 高田さんにとってはゲームの画面が楽譜みたいなものなのかな? と私は思っています。その楽譜に高田さんが解釈を加え、キャラクターとして出力する。工程としてはそんな感じじゃないでしょうか。

誇張する事で、逆にその世界の自然になる


―― 福田さんは今作のSEを制作するにあたり、どのような事を心掛けましたか。
福田 ハンドレッドラインに限らず、SEを作る上で大切にしているのは違和感のない音を出す事です。

―― 違和感を消すために、どのような工夫を凝らしているんですか?
福田 例えば、できるだけSEの音程を楽曲に合わせるようにしています。ここがズレるとすごく気持ち悪いんです。高田さんの楽曲のキーがGマイナーだとしたら、SEもGマイナー系で作る、という。これに限らず心がけていることはシンプルです。

―― ここでもサウンドチームのコンビネーションが大切になってくるというわけですね。
福田 SEは本当に合わせが大切なので、大抵の場合は楽曲を聞いてから作ります。音程感のあるSEの場合は特に。ただ、SEが鳴るときの楽曲は一種類でないことも当然ありますので、そういう場合は、ゲームプレイで聞く頻度が高い楽曲、もしくは一番最初に重なる楽曲に合わせる、といった決め方もしています。
高田 福田くんはどんな時も必ず楽曲に合わせてくれるから本当に助かるよ。
福田 しっかり合わせて楽曲の魅力を引き出すのもSEの仕事ですから。

―― お二人の親密な関係性が、楽曲とSEの素晴らしいコンビネーションを生んでいるんですね。
福田 あと、一緒に仕事をするようになってすぐの頃に高田さんから教わった事なんですが、中途半端にしない、というのもあります。
人を殴る音は「バキッ」ではなく「バキッィツ!!!」、大砲を撃つ音は「ドーン!」じゃなくて「ドォォォン!!!」、というように大げさにするとリアリティーが増したりするのが面白いところです。

―― 大げさなのにリアリティーが増す?
高田 例えば、素人が舞台で恥ずかしがりながら演技してると、見てるこっちの違和感すごくないですか? 開き直って演じてくれないと、「ああ、あいつセリフを読んでるな」ってお客さんが覚めてしまう。
SEもそれと同じで、気恥ずかしがってちゃダメなんです。この音を出すんだ! という決意を持って思いっ切り鳴らしてみると、案外リアリティーのあるものができるんです。
福田 リアリティーのある音を出すには、リアルよりも一歩か二歩ぐらい大げさな表現が必要だと思います。リアルに寄せ過ぎるのも必ずしも正解じゃないかな、と思っています。
高田 誇張をする事で、逆にその世界の自然になるんです。これはサウンドに限った話じゃないと思いますが。
福田 チョロQに例えた話もありますが、それはまた別の機会に・・・

一日三曲作るコツは、一日三曲作り続ける事


―― お二人とも今作では膨大な量のサウンドを制作していましたが…やはり大変でしたか?
高田 いやーそれにしてもすごい量だったなぁ(笑)
福田 しかもこの作品だけじゃないですからね…同時並行で別のプロジェクトのサウンドも作っていましたから。

―― 高田さん、一番お忙しい時期は一日三曲ぐらい作ってましたよね。一体どうやってそれだけの作業量をクリアしていったんですか…?
高田 一日三曲作るコツは、一日三曲作り続ける事です。

―― ……?
高田 一日三曲作ってると、なんか一日三曲作れるようになるんですよ。適応が進むというか…でも休むとまた元に戻っちゃうので、一日三曲作れるようなったら毎日三曲作り続けるんです。
福田 それはすごくわかります。慣性の法則というか、大量に作り始めると大量に作れるようになるんですよね。
高田 俺は役員側だから労働基準法も適用されないし、おかげで思う存分曲作りに熱中できる(笑)
福田 僕は社員なので、労働基準法の範囲内でやりくり・・・しています(笑)

相反性の塊であるSIREI


―― お二人が今作で一番制作に手を焼いたサウンドを教えて下さい。
高田 なんと言ってもSIREIのテーマですね。あいつは本当に変なキャラだから…

―― なかなか見ないタイプのマスコットキャラですよね。
高田 あんなキャラ他にいないですよ。シュールギャグの権化みたいなキャラかと思えば言動や雰囲気は不穏だし、仕草はかわいらしいのに時々とんでもない事をしでかすし、何より声が大塚芳忠さんだし。
存在自体が相反性の塊というか…どの要素にフィーチャーして曲を作ればいいか最後まで悩みましたね。
福田 SIREIに関しては高田さん、本当に悩んでましたよね。SIREIの皮肉った感じがなかなか出ないって。
高田 福田くんにもかなり協力してもらったよね。仮歌を歌ってもらったり。
福田 あーでもないこーでもないって、色々なバージョンを歌いましたね。
高田 福田くんの協力のおかげもあって、最終的には素材集の波形を再構築したバージョンに落ち着きましたが、面白い曲になったと思います。ぜひみなさんゲーム内で確認してみてください。

最初のSEだからこそ手を抜けない


―― 福田さんはいかがでしょう?
福田 比較的制作に時間がかかったのは、タイトル画面で最初にボタンを押す時の音ですね。プレイヤーが最初に自分の指で鳴らす音ですから、音の強さとか音色とか結構悩みました。
高田 やっぱり最初が肝心だもんね。冒頭にどんな音を鳴らすかで作品全体の印象が変わってきたりするし。
福田 開始画面で鳴ってる楽曲がめちゃくちゃカッコいいので、余計にハードルが上がってしまって(笑) 何回か作り直しました。
高田 でも、結果として福田くんの作った冒頭のSE、本当にいいものになったと思うよ。シンプルにかっこいいし、それでいて哀切な感じもするし。不穏さと少年少女の叫びのニュアンスみたいなものも入ってる。

―― 一秒に満たない音の中に様々な感情が入っていて、美しいSEだと思いました。
福田 そう言ってもらえると、悩んだ甲斐があります…!

―― 冒頭のSE、このブログに貼っちゃいましょうか?
高田 いや、ブログで出しちゃうのはもったいないと思います。ユーザーの皆さんに直接“体験”してもらいましょう。


まだまだ続くサウンド対談! 
後編は3月8日に掲載予定なのでお楽しみに!
※1グラスホッパー・マニファクチュア……『killer7』『ノーモア★ヒーローズ』等で知られる日本のゲーム会社。
※2小高和剛……『ダンガンロンパ』シリーズの生みの親。トゥーキョーゲームス代表取締役社長。