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『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』クリエイターズブログ Vol.12

打越鋼太郎
2025.04.05
皆さん、こんにちは!TooKyo Games打越と申します。本作では○○を担当させて頂きました。

と、通常であれば挨拶すべきところなのですが、この【○○】の部分になにを入れるべきなのかわからず…。これまでもハンドラに関する多くのインタビューを受けてきましたが、そのたびに本作における自分の肩書きというか、役職的なものをなんと言えばいいのかわからず、今日に至るまでずっと困惑し続けてきたのでした。

ある日、小高に相談したところ「普通にディレクターでいいんじゃない?」との素っ気ない返事が…。いや、だけど、全体を統括しているのはもちろん小高だし、他にも本作には何人もディレクターが関わっているので、なにか差別化できる呼び方はないものかと、ひたすら思い悩んできたのです。

と言いつつも、実はぼくには“裏設定的な”肩書きが、あるにはあったりします。“裏設定”なので、本当は言ってはいけないような気もするのですが、これを読んでいる皆さんはガチのハンドラファンだと思うので、そんな皆さんのためにこっそりお教えしましょう。

ぼくの裏設定的な肩書きは――【ハンドレッドルートシナリオディレクター】です。

ただしこれはスタッフロールに載っているものとは異なります。スタッフロールはすべて英語表記で、この名称がいい感じに翻訳されているため、別の呼び名になっているのです。だから…“裏設定”なんです。オフィシャル上は(たぶん)どこにも記載されていませんが、開発の内部資料にはきちんとそう書かれています。

インタビューを受け始めた初期の頃は「100個のエンディングがある」というのは伏せられていたので、この肩書きは名乗れなかったんですよね…。今はその情報は公開されているため、まあ言ってもいいと言えばいいのですが、そもそも長すぎるし…。もっと端的な呼び名はないものかと思案に暮れている次第なのです。

  *  *  *

さて、では【ハンドレッドルートシナリオディレクター】とはなんなのか?打越は一体なにをしたのか?

その話の前に、まずは小高が担当したメインシナリオのことを“真ルート”と呼ぶことにします。これもゲーム内でそのように記されているわけではないのですが、開発上は便宜的にそう呼ばれていたので、ここでもそれに倣って“真ルート”と…。

その真ルートという太い幹から多くの枝葉を伸ばし、合計でエンディング数が100個(正確に言うと、真ルートを除いた99個)になるよう分岐構造を構築すること。それが、ぼくが最初に取り掛かった仕事でした。

枝葉と言うと些末なもののように思えるかもしれませんが、決してそういうわけではありません。

小高からのオーダーはこうでした。
・その99個のエンディングには必ず意味を持たせてほしい。
・それらはオマケシナリオやスピンオフのように見えてはならない。
・安易なバッドエンドは避けること(たとえば分かれ道があって「右を選んだからトラップにかかって死にました…【END No.XX】」みたいなのは禁止)
・なんならメインシナリオは“真ルート”と呼ばなくてもいい。
・すべてのルートが“真ルート”と呼ばれてもいいぐらいの濃密な中身になっていること。

またいくつかのストーリーラインを束ねた大きな括り(各編)については「そのジャンルを完全に変えてほしい」という要望もありました。たとえばオカルト的な話だったり、SFだったり、青春ドラマだったり、ミステリーだったり、ラブストーリーだったり…。ある分岐点から別の編に突入したら、まったく違ったジャンルの話になるようにしてほしいと…。とはいえ、突然切り替わるのは不自然だから、あたかもグラデーションがかかっているかのように、自然な流れでその種の話に移行していってほしいとも言われました。

それを聞いた瞬間「ほほぅ…面白い。やってやろうではないか!」と、全身の血が沸き立つような興奮を…もちろん覚えたりはしませんでした。ぼくがそのとき抱いたのは「正気か、こいつ…」という血の気が失せていくような感覚でした。

ぼくは小高に正気を取り戻させ、どうにかして思いとどまらせようと考えました。けれど口で言っても上手く伝わらないような気がして、ぱっと見でわかるような視覚的な資料を作ってみることにしました。具体的に言うと、すべてのフローチャートを紙に印刷し、事務所の一番目立つところに貼り付けることにしたのです。

完成したそれはA4の紙を横に4枚、縦に5枚並べてテープで貼り付けたもので、畳一畳分ほどのサイズがありました。フローチャートの各セル内には潰れたダニのように小さな文字がびっしりと記されていて、おそらくそれを見れば、我々がこれからどれほど恐ろしく、狂気的なことをなそうとしているのか、きっと小高にもわかってもらえるだろうと思ったのです。

が、そんなぼくの思惑はあえなく散ることになりました。小高はその畳のようなフローチャートを満足げに眺めてこう言ったのです。

「なぁ、TooKyoの社名の由来を覚えているかい? これはまさに“Too狂”らしいゲームじゃないか。俺達にしか作れないゲームだよ」

そう、取り戻すもなにもない。そもそも初めから、会社を起ち上げたそのときから小高は正気ではなかったのです。けれど、それはなにも小高に限ったことではありません。志を等しくしたあのときから、ぼくもまた同じ穴のムジナだったのでしょう。あるいは、場合によってはぼくのほうがむしろ…。

まともに生きることのできない社会不適合者であるこのぼくに、人様のことをとやかく言える義理はありません。「ならば、その狂気に乗ってみようではないか…! 2月の桜のように狂い咲いて散ろうではないか…!」とはさすがに思いませんでしたが、とにかくぼくも、例の畳のようなフローチャートを眺めながら、こうポツリとひとりごちたのです。

「やるしかないか…」と…。

  *  *  *

以降に行なった【ハンドレッドルートシナリオディレクター】的な仕事は多岐に渡ります。

プロットを書いたり、本編を書いたり、社内スタッフや外部のライターさんに発注したり、上がってきたシナリオをチェックしたり、修正したり、等々…。プロジェクトの後半は自分でスクリプトも打ち込み、キャラの表情指定やSEの設定、BGMの選定や各種演出の強化も行ないました。

シナリオを書いた社内スタッフとライターさんは、小高とぼくを除くと合計で9人。その9人の皆さんには、まずは整合性を気にするよりも、小高の作った“ハンドラVerse(スパイダーVerse的なVerse)”の中で、のびのびと書いてもらうことを重視しました。もちろん終盤のデバッグで矛盾しているところはすべて潰したつもりです。そのおかげで、世界観的にはきっちりとした統一感は保たれながらも、各ライターさんの特色も薄れず鮮やかに表れており、全体として奥行きのある立体的な作品になったと思っています。

あ、言うまでもないですが、当然のごとくすべてのシナリオが面白いですよ! なので、ガチのハンドラファンの皆さんにはぜひとも隅々までプレイして頂きたい! 一方、そうじゃない皆さんは、どこかでお気に入りの1ルートを見つけたら、それを“真ルート=トゥルーエンド”と考えて頂いてOKです。これはぼくだけの意見ではなく、それこそがむしろ小高が当初から想定していた、このゲームの正当な楽しみ方のひとつなのです。

  *  *  *

まだまだ書きたいことは山のようにありますが、そろそろ結びの言葉を述べて締め括らなければならない頃合いでしょう。

このゲームの開発会社はメディア・ビジョンさんです。本作が素晴らしい出来になったのは、とりもなおさずメディア・ビジョンさんのおかげです。弊社からの無理難題にもすべて丁寧に応えて下さいました。心から感謝致します!

それから、このような場で身内のことを言うのも恐縮ですが、社内スタッフのみんなも精一杯がんばってくれました。【ハンドレッドルートシナリオディレクター】としては力不足なところも多々あったかと思いますが、みんなのサポートのおかげで、どうにか完成にこぎつけることができました。本当にありがとうございます!

また小高、高田、小松崎という3人の天才たちと一緒に仕事ができたことも、ぼくにとっては極めて大きな貴重な経験となりました。極上のシナリオ、感動的な楽曲、魅力的なデザイン…いずれも最高に秀逸で見事でした。

もちろんアニプレックスの皆さんにもお礼を伝えないわけにはいきません。この作品を世に出すことができるのは皆さんのご尽力によるものです。深く感謝しております。

最後に…ファンの皆さんにも。皆さんの声援やサポートがなければ、これほどの超大作を作り続けることはできなかったでしょう。皆さんの温かい声が糧となり、スタッフ一同の励みになりました。本当にありがとうございます! これからも引き続き、応援して頂けると嬉しいです!

  *  *  *

「HUNDRED LINE -最終防衛学園-」は4月24日発売です。巷ではなにやら「4/24=死に死」と呼ばれているようですが、ぼくは別の呼び方を提唱します。

それは――「死にゃんよ!」です。

ハンドラは決して死にません。ゲーム内の特防隊員たちと同じように、永遠に語り継がれ、生き長らえていく、不死身の傑作となることでしょう。